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マ「最初に言っておく!オレはかーなーりーマジだ!マージマジマジーロだ!!」 銀「言葉の意味はよく分からないけどとにかくすごい自信ね。」 金「カナは最初にルールを言って欲しいかしら。」 マ「さっきのじゃ分からなかった?」 蒼「ちょっとややこしかったり、曖昧だと感じたりする箇所はあったかな。」 マ「じゃあまとめます。」 真「そうね、明文化しておいた方が後々に揉めずに済むわ。」 マ「じゃあ書面に起こしておこう。」 真「任せなさい。ホーリエ、文書を用意して。」 マ「おお、早い。流石はダイレクトメール作りの達人!」 以下がその内容のまとめ。 ☆ルール★ ・隠れる時間は15分、探す時間は60分 ・姿を発見されたものは失格となる ・探すのを薔薇乙女の能力で妨害するのは禁止! ・1対1の勝負が原則である ・我が家がリングだ! 真「それでどうかしら?」 マ「んー・・・これで大丈夫じゃないかな。」 真「それなら他の皆にも渡して確認してもらって頂戴。」 マ「どう?」 銀「我が家ってどこまで?例えばこの家の上空数十メートルとかもあり?」 マ「えーと、無しの方向でお願いしたい。」 蒼「家屋に接触してるって条件にすれば?」 薔「その場合・・・庭は・・・どうなりますか?」 マ「敷地内もOKでいいんじゃない?地面に触れてれば。ただ誰かに見つからないようにね。」 翠「かくれんぼなのにパンピーに見つかるなんて奴は流石に居ませんよ。」 雪「隠れるために何か破壊しても罪に問われませんか?」 マ「ごめん、勘弁して。」 真「自分で責任を持てる範囲になさい。」 マ「まあ直してくれればいいんだけどさ・・・でも家中廃墟みたいにして隠れられても困るし。」 そんな中を探し回ると想像しただけで精神力が削られそうだ。 金「隠れないで逃げ続けるのはあり?」 マ「別にいいんじゃない?」 雛「ふぅん・・・。」 マ「他には?」 薔「見つかってしまったら・・・どうすれば・・・。」 マ「ああ、そう言えば・・・どこかに固まっててもらう?」 真「別に連れ回せばいいんじゃない? あなただってグルがどうとか心配してるみたいじゃない。」 マ「まあその方がありがたい。」 疑う訳でもないが、彼女達ならその気になれば目を盗んで何か出来てしまうだろう。 曲がりなりにも目の届くところに居てもらった方が安心だ。 翠「それってこいつの手下みたいにして働けって事ですか?」 翠星石が露骨に嫌そうな顔をする。 薔「それだと・・・『1対1の勝負』に抵触するような・・・。」 マ「まあその条項はノリで入れただけだし、邪魔しなきゃ正直どうでもいいけどね。」 真「あなたの好きにすればいいんじゃないの? 自分以外の誰かが勝つのが自分に不利益をもたらすかもしれないんだし。」 マ「情報を聞いたりしてもいいのかな?」 真「構わないと思うわ。ただ、答える義務は無いし、それを鵜呑みにしていると足元を掬われるかもね。」 雛「誰かと協力してて聞かれてうそをついたり、わざと誰かにうその作戦を教えたりってこと?」 真「そうよ。撹乱のために知らず知らずに利用されてるかもしれないわ。」 金「なんだかみんなが敵に見えてきたかしら。」 銀「そうねぇ、『お願い』とやらの矛先が自分に向きかねないんですものね。 状況に合わせて動くべきね。まぁ私は単独でも見つかるつもりなんて無いけどぉ。」 雪「あの・・・その『お願い』というのも良く分からないんですが。」 雪華綺晶が手を挙げておずおずと尋ねてきた。 真「勝者へのご褒美、あなたの場合は自分が時間内に見つからなければ貰える権利よ。」 マ「簡単に言うと勝者は敗者の誰か一人を指名して要求を通せるんだよ。 ・・・僕の場合はドール達8人全員に対してでいいんだよね?」 真「勝利条件が厳しいからそれでいいと思うわ。」 金「誰か一人ってのは例えば私なら翠星石にとかでもいいのかしら?」 真「そうよ。ただ、翠星石が敗者、見つかってしまった場合に限ってね。」 翠「なんか言いたい事があるんですか?デコ助野郎。」 金「べ、別になんにも無いかしら!」 翠「ホントですかぁ?」 金「強いて言えば一応カナがお姉さんなんだからサン付けでなくてもせめて名前で呼んで欲しいかしら。」 翠「翠星石のように妹から尊敬されるような姉になってから言えです。」 蒼「・・・・・・。」 銀「で、それってどんな内容でもいいのぉ? 例えば真紅に姉妹全員を倒してそいつらのローザミスティカを寄越しなさい、とかぁ。」 水銀燈がおふざけとも本気とも判断しかねる表情で怖い事を言った。 マ「・・・無しにして欲しい。」 真「無理ね。さっき言ったけど、自分だけじゃ出来かねる事は無理よ。 本人にその気があれば出来る事じゃないと。」 銀「あらぁ、あなたならその気になれば出来るんじゃなぁい?」 真「どうかしら・・・少なくとも私はそこまで戦える程に強くはないと思うわ。特に心が、ね。」 銀「ふん、使えない。じゃあ乳酸菌飲料100年分とかは?」 マ「人を破産させる気か。」 真「別に構わないんじゃない?」 マ「ちょっとぉ!!」 真「その気になれば出来るでしょ?」 マ「経済力がそこまで強くないんですが。」 金「借金とか・・・みっちゃんならいいところ知ってると思うかしら。」 マ「真面目な顔して言わないでよ。」 翠「要は全員見つけちゃえばいいんですよ。」 翠星石が無責任な事を言う。 が、確かにその通りだ。 それ以上は特に疑問も無いようで、そんなこんなでようやく話がまとまった。 マ「じゃあ合意と見てよろしいですね!?」 真「それでは始めましょう。」 マ「ちょっと待った、15分後に目覚ましと携帯のタイマーをセットしておく。」 翠「随分と念入りですね。」 マ「そりゃあ正念場だからね。」 真「そう。じゃあセットが終わったら壁を向いて目を隠しててね。」 マ「分かった。」 銀「そうね、私達の方も念のためにしばらく監視させてもらうわ。」 水銀燈が自分の人工精霊を出す。 蒼「マスターを疑うのかい?」 銀「あらぁ、禍根を残さないためよ。ゴネそうなのも居るしぃ。」 そう言って真紅の方をちらりと見た。 真「私は必要ないと思うけど、別にいいんじゃない?」 銀「まあいいわ。メイメイ一人で十分よね。 途中で見つからないように私のところへ戻って来なさい。」 メイメイがうなずく様に上下に飛ぶ。 マ「よし、セットできた。じゃあ今から15分間ね。」 一同が真剣な顔でうなずいた。 自分はそれを見て壁に向き直り顔を腕で隠す。 どたばたと忙しなく駆ける音、慎重にそろそろと移動する音。 否応無く聴覚に集中させられ、いろいろな音が聞こえる。 どこかで何かを開けてごそごそとする音・・・変な物を発掘されたらどうしよう。 遠くから聞こえる何かが割れるような音・・・一応直す方法はあるとはいえ物は丁重に扱って欲しい。 なんだかこうしていると心が落ち着かない。 準備の時間は10分にするんだったかな。 なんだかセルゲーム開催を待つセルの気分だ。 仕方ない、無事に全員を見つけてお帰り願った時にどうするかでも考えて現実逃避するか。 そうだな・・・やっぱ久し振りに蒼星石と・・・二人きりで・・・・・・ちょっと大胆だったかな・・・ ・・・・・・まあ良いではないか、良いではないか・・・・・・いやー、困っちゃうなあ・・・ 『そ、蒼星石だよ。蒼星石だよ。蒼星石だよ。』 マ「あぁっ、ごめんなさい!!・・・ふぅ、僕は馬鹿か。」 鳴り出した携帯の着信音、と目覚ましのアラームに現実に引き戻された。 振り返ると当たり前だが誰も居ない。 メイメイの姿もなく、辺りはしんと静まり返っていた。 マ「よし、全員見つけ出して強制送還だ!!」 いよいよ各人の願いを賭けた戦いが始まった。 -残り時間:60分- 残ったドールは・・・8人
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連休初日、家でのんびりしていると翠星石たちが遊びに来た。 今日は雛苺や金糸雀、真紅までもが連れ立ってる。 マ「お茶入れたよ。おやつにしようか。」 みんなでおやつを食べて駄弁っているといきなり雛苺が言った。 雛「ねえねえ、金糸雀のお名前って漢字でどう書くの?」 金「黄金の『金』、お裁縫なんかの『糸』、鳥の『雀』かしら。」 翠「黄金ですか!なんだかゴールデンでゴージャスですね!!」 真「ゴールデンといえば、何かを思い出すわね。」 一同が揃って視線をこちらに向ける。 練習してきたようだがはっきり言ってさっきからとってもわざとらしい。 蒼「何か・・・求められてるみたいだよ?」 マ「あのさ、わざわざ小芝居しなくてもいいから、単刀直入にどうぞ。」 その言葉に一同が顔を合わせる。 そして代表して翠星石が口を開いた。 翠「せっかくのゴールデンウィークだからどっか連れてきやがれです!」 マ「なぜ僕が。」 真「せっかくの連休だから泊りがけで出かけたくもなるじゃない。」 マ「泊まりで、ねえ。」 蒼「僕らはそんなに休日って関係ないけどね。」 雛「出かけたいの、出かけたいのー!!」 金「こういうのは理屈じゃなくって雰囲気が大事なのかしら♪」 マ「で、他の人達は?」 金「みっちゃんは連休なのにお仕事だし、」 雛「トモエはガッシュクなの。」 真「ジュンものりもちょっと無理だそうなのよ。」 マ「で、皆さんを一人でお相手しろと。」 翠「大丈夫です!もうプランは考えてありますから。」 翠星石が胸を張って自信満々に宣言した。 マ「いつも当事者不在で勝手に話を進めるよね。」 蒼「それって大丈夫の根拠になってないよ。それに今から準備できるの?」 翠「まあ聞けです。」 金「聞いたらきっと行きたくなっちゃうかしらー!!」 雛「バッチリの計画なのー!」 マ「じゃあ聞かせてよ。」 翠「まず大きめのレンタカーを借ります。お前は運転できますよね?」 マ「うん。」 翠「そして山にドライブです。」 マ「ほう。」 蒼「そんな場所へ行って人目は?」 真「穴場があるそうよ。」 金「この時期じゃまだ寒くて誰も行かないと評判のところがあったかしら♪」 マ「そんなところに行きたいの?」 翠「で、後はキャンプしてサバイバルです。」 マ「サバイバル?」 雛「大自然とふれ合うのよ。」 真「おやつや遊び道具も現地調達するから荷物も少なくて済むわ。」 蒼「それが・・・プラン?」 はっきり言ってずさんで行き当たりばったりとしか思えない。 それならいっそマスターに任せてミステリーツアーにした方が遥かに良いのではないだろうか。 まあ・・・マスターがその気になってくれればだが。 マ「なるほどそいつは楽しそうだ。」 蒼「えぇっ!?」 何やら意外な方向で乗り気になっているようだ。 マ「たまには文明の利器のありがたさを知るのもいいかも。」 翠「ですよねー?」 金「じゃあ連れてってくれるのかしらー?」 マ「だがノン!」 雛「えー、ひどいのー!ケチケチしないでなの!!」 マ「ケチではなく、先約が入ってるんだ。」 真「だったら仕方ないけれど、それを先に言いなさいよ。」 翠「無駄に期待させんじゃねえです!」 マ「内容次第ではなんとかなるかとも思ったんだけどね。 まあ無理っぽいからそのプランはまたの機会にでもね。」 翠「ま、まさか蒼星石と二人っきりでどこかに行ってアバンチュールを・・・」 蒼「・・・そうなの?」 マ「だったらいいがそれも違う。人と会うんだよ。」 真「まあ無理なら長居は無用ね。」 金「連休中はみんなで集まって遊んでましょ。」 雛「桃鉄全シリーズ99年制覇しちゃるのー!!」 翠「蒼星石も暇な時に来てくださいね。」 蒼「99年・・・気が向いたらね。」 マ「じゃあまたね。」 マ「ゴールデンウィークと言っても結構みんな忙しいみたいだね。」 要求が通らないと分かった途端に薄情にもみんな帰ってしまった。 静かになって落ち着いたところで改めてマスターと一服する。 蒼「はいお茶。それで・・・連休中の予定だけど・・・」 マ「うん?」 蒼「その・・・二人でどこかに行くとか・・・」 マ「どこにも行けないけど・・・んー、蒼星石はどこか出かけたかった?」 蒼「え、違うよ!?マスターの予定を確認したいだけだよ、あはは・・・。」 ついつい未練がましい言い方になってしまっていたのだろうか。 だけど返答を聞いてちょっとがっかりしたのも事実だ。 マ「明日の4日にさ、連休のど真ん中なのに両親が観光がてら様子を見に来るんだってさ。」 蒼「マスターのご両親が?」 マ「そ。まあ様子見がてら観光かもね、寂しい一人暮らしと思われてるし。」 蒼「あ・・・そっか。」 マ「もちろん実際はちっとも寂しくなんかないけどさ。」 マスターが僕の頭を撫でる。 マ「まあ来てくれること自体はありがたいんだけどね。ただ・・・」 マスターの表情がわずかに曇る。 蒼「どうしたの?仲でも悪いの?」 マ「いや、違うよ。たださ、顔を合わせるといろいろ口うるさく言われてね。」 蒼「それは仕方ないよ。マスターの事が大切だからこそ心配なんだよ。」 マ「そうなのかもね。妹も一人居るけど、みんな仲良くやってけてると思う。 その事自体はとてもありがたいと思ってる。」 蒼「ふうん、そうなんだ。どんな人達なんだろう。」 マスターを育てたご両親、マスターに面倒を見てもらったり、時にはケンカしたりしたであろう妹さん。 僕以上に長い時間をマスターと共に過ごしたのがどんな人達なのか気になった。 マ「それなりに不自由なく『普通』に育ててくれたし、尊敬してるよ。 会ってみる?素敵な子だと紹介させてもらうけど?」 蒼「それはちょっと・・・僕らの存在がいたずらに知られるのは良くないと思うし。」 マ「だよね。仕方が無いけど。その間はどこかに行ってもらってた方がお互い安心かな。」 蒼「分かった。明日はどこかに出かけておくよ。」 マ「お願いするよ。日帰りらしいから夜には戻ってきてくれればいいから。 もちろんどこかに外泊してくれても構わないけどさ。」 蒼「ううん、帰ってくるよ。せっかくの連休だしマスターと一緒に過ごしたいからね。」 マ「ごめんね、連休なのに分断されちゃうから何もしてあげられなそうだ。」 蒼「別にいいんだよ。一緒に居てくれるだけで僕は幸せだよ。」 一緒にどこかへ出かけたい気持ちもちょっぴりあったのは確かだが、この言葉は僕の本音だ。 マ「ありがとう・・・。」 マスターが今度は僕を抱き締めてくれた。 さて、そんな訳で日中は主におじいさんのお宅で過ごした。 なんだかんだでだいぶ遅い時間になってしまった。 帰り際、おじいさん達は明日は子供の日だからマスターとまたおいでと言ってくれた。 それにしても、翠星石のところにも顔を出してはみたが・・・あれは凄かった。 昨日の宣言どおりにゲームをやっていたが、もう形勢が固まっていて作業のようだった。 しかもぶっ続けでやってくたびれたところに足の引っ張り合い、もめ合い・・・阿鼻叫喚である。 もう少しで99年終わりそうだから見ていたが、思いの外に時間を取られてしまった。 次のゲームに移る際、翠星石に参加しないかと言われたがとてもそんな気にはなれなかった。 もしも参加していたらこの時間にもまだ帰れなかっただろう。 何はともあれ今はマスターに会いたい。 蒼「あれ?」 何やら居間の方から話し声が聞こえた。 様子を窺うと複数の人の気配がする。 どうやら電話ではなさそうだ。 開いた戸の傍で聞き耳を立てて状況を確認する。 父「悪いな、急に泊めてもらっちゃって。」 マ「まあいいさ。せっかく久し振りに会えたんだし。」 母「そうよね、滅多にできない団欒だもんね。」 マ「まあ一人だけ居ないけどね。」 父「あいつは友達と二泊三日の旅行に行っちゃったからな。」 マ「薄情だなあ。前は帰省のタイミングを合わせたりしてくれたのに。」 父「いやいや、若いうちはそうやってみんなで遊んだ方がいいんだ。 むしろお前だってそういった事をやらなきゃ駄目だぞ。」 マ「連休のど真ん中にやって来られたら泊りがけで出かけるなんて無理じゃん。」 父「お前が寂しい思いをしないように来てやったんじゃないか。」 マ「その言い草はないよ。わざわざこっちに出てくるって言うから予定もキャンセルしたのに。」 父「ほう、どんな予定だったんだ?」 母「旅行?」 マ「えーと、まあね。」 マスターが言うんじゃなかったと思った時の顔になる。 母「誰と?」 父「友達か?」 マ「うーん・・・ちょっと違うかな。・・・女の子。」 父「二人でか!?」 マ「一応ね。」 母「キャンセルしたって事は泊りがけよね。」 マ「さっきも言ったじゃない。」 憮然とした感じのマスターの声。 あんな事を言ってたけど僕とどこかに行くつもりだったのだろうか? ちょっと気になって戸から身を乗り出して中を覗く。 マスターの姿は見えるがご両親の姿はちょうど死角で見えない。 少し残念だがこれなら見つかったとしてもマスターにだけで済むだろう。 そのまま室内に目を向ける。 マスターはまだこちらに気付いていない。 母「で、どんな子なの?」 マ「えーとね・・・。」 マスターはお酒が入ってる事もあってか真っ赤な顔だ。 そして傍らにあったコードを指でくるくると巻いてもてあそんでいる。 父「最近は変な女も多いから気をつけるんだぞ。」 マ「違うよ!可愛い上に家庭的でとっても気は利くし、謙虚で知性的な子だよ。」 マスターの照れながらの指遊びがいっそう激しくなった。 ご両親の前だからかなんだか子供っぽくて、それが僕には可愛く見えた、 父「そりゃ凄いな。」 母「本当にそんな子が居るものなのね。」 ご両親の半信半疑の声。 かく言う自分も・・・果たして自分の事なのか自信が無くなってきた。 父「でもそんな立派な子だとライバルも多くて大変だろ。」 マ「うーん、かもね。だけど今は多分お互いに一番長い時間を一緒に過ごせてると思う。」 多分、僕の事・・・だろう。 父「ほう。そのまま逃がすんじゃないぞ。」 マ「そうしたいね、心の支えになってくれる子だし。 だけど家庭の事情がなあ・・・。」 母「何があるの?」 マ「うーん、その子の姉妹とか・・・あと父親がね。」 これは・・・僕だな、さすがに。 母「ファザコン?」 父「じゃあ俺も脈アリか!」 マ「ありえないが万一の時は実力行使に訴えてでも止める! ・・・まあでもそれに近いかもね。 自分よりも父親の方を選ばれてしまうかもしれない。」 母「頑張ってね、ううっ・・・。」 マ「どうしたの?」 母「ああ・・・この子がこんな風に女の子の事を話すなんて初めてだから・・・。」 マ「いやまあ、そんなに話すような話題でもないし。」 父「確かに。これで二人とも安心できる。いいか、なんとしてもその子を射止めろよ。」 母「明日は帰ったらお赤飯炊いてお祝いしなきゃ!」 父「ご先祖様や親戚にも報告しなきゃだな!」 マ「馬鹿なこと言わないでよ。おつまみに何か作ってくるから待ってて!」 大袈裟に盛り上がるご両親との話を打ち切ってマスターが立ち上がった。 先に台所の方へと移動しておく事にした。 マスターが有り合わせの物でおつまみを用意している。 蒼「・・・マスター・・・。」 マ「・・・ん?ああ、蒼星石帰ってたんだね。」 蒼「うん、さっきね。」 マ「ごめんね、親が急に泊まるって言い出して。伝える暇もなかった。」 蒼「いいんだよ、そんなの。」 マ「あ、でも鞄だけは鏡の脇のところに運べたからさ、どこか適当な場所を探して蒼星石は寝てて。」 蒼「分かった。」 マ「本当に申し訳ない。」 蒼「ねえ一つ聞いていいかな?」 マ「何?」 蒼「マスターってさ、とっても素敵な女性とお知り合いだったんだね。」 マ「ぶっ!!」 蒼「僕はそんな事ちっとも知らなかったよ。」 マ「さっきの話・・・聞いてたの?」 蒼「たまたまね。で、誰なのかな?」 マ「うー・・・。」 蒼「そんな人が居たら僕もお役御免になっちゃうね。」 マ「意地悪だなぁ、蒼星石に決まってるじゃないか!」 紅潮した顔で確かにそう言った。 蒼「ごめんなさい、でもマスターの口から確認しないと不安で・・・。」 マ「不安なのはこっちだよ。いつ見放されちゃうかも分からないんだから。」 ぶつくさ言いながら料理を再開する。 蒼「ねえ、マスター。」 マ「ん、なんだい?」 蒼「僕は・・・今はマスターの方がお父様よりもずっとずっと大事だよ。」 それを聞いたマスターがぽかんとしている。 マ「どういう・・・こと?本当にそれで・・・いいの?」 蒼「ふふ・・・お父様を裏切る事になっちゃうのかな? でもいいんだ、僕はマスターと共に在りたい。」 マスターが黙ったまま固まってしまう。 蒼「あ、はは・・・突然変な事を言っちゃってごめんね。」 マ「いや・・・」 マスターの目から大粒の涙がこぼれた。 蒼「ど、どうしたの!?」 マ「ありがとう・・・嬉しいよ。」 マスターが目頭の辺りを押さえている。 蒼「ちょっと、落ち着いてよ。ご両親が心配しちゃうよ。」 マ「あはは、そうだね。玉葱でも刻んでごまかそうかな。」 蒼「もう、マスターったら。そんな程度じゃすぐばれちゃうよ。」 マ「違いない。」 二人で顔を見合わせて笑った。 その後マスターは料理を終えご両親のところに戻った。 一方僕はというと・・・また居間の戸の陰にいた。 こんな時間になってよそに押しかけるわけにも行かない。 家で寝るのならもう少しマスターのご家族を様子を知っておいてもいいだろう。 正直に言えばどんな話をするのかに興味があるのだが。 マ「お待たせ。」 父「ほう、またいろいろ作ったな。」 マ「有り合わせだけどね。まあ料理は好きだから。」 マスターが楽しそうに言った。 父「でもそうやって気付いたら自分が作る役にされていたとか無いようにしろよ。」 マ「大丈夫だよ。」 父「いや、結婚すると女は変わるぞ。うちがそうだった。」 マ「はは・・・結婚ね。」 何やら勝手に話が進んでいる。 でも不思議と悪い気はしない。 父「何を言うんだ、大事な問題だろ。お前だってそろそろそう言った事を考えてだな・・・。」 マ「また・・・そんな話?」 何故だかマスターの機嫌がさっきから急に悪くなっているような気がした。 母「でも確かにそろそろ、ね。」 父「そうだそうだ、早く結婚して孫の顔を見せてくれよ。」 マ「!!」・蒼(!!) 父「もうお父さん達も若くないからな、孫の顔を見て隠居したいもんだ。」 マ「その辺と血筋を残すのはもう妹に任せたよ。」 父「そういうもんじゃないだろ。やっぱりお前だって子供を持って一人前の男としてだな・・・」 マ「でも・・・僕は・・・まだそういうのは考えられないな。縁があればあるいは、だけど。」 途切れ途切れになりながら何とか言葉をつなげる。 母「でもね、子供が生まれるってとても幸せよ?お母さんはあなた達に恵まれてとっても幸せなんだから。」 マ「う・・・ありがとう。」 父「そうだぞ、お父さんもお前達のおかげで幸せだ。」 マ「・・・まだ・・・自分には早いよ。・・・相手があっての事だしね。」 マスターが声を絞り出すようにしてそう言った。 母「でも相手はいるんでしょ?」 父「そうだぞ、お互いにその辺りの将来設計もしっかり考えてだな・・・。」 マ「お父さん達の言いたい事は分かるけど・・・相手の事情もあるからね。今は・・・ごめん。」 父「いつもそうだな。まあいいさ、相手が見つかったんならもうすぐだからな。」 母「楽しみね。」 父「今から相談して名前でも考えておくか。」 マ「楽しそうだね・・・まあもう一杯どうぞ。」 父「おおすまんな。お前も飲むか?」 マ「うん、貰うよ。」 マスターはお酒を注いで貰うとそれまでよりもハイペースで飲みだした。 子供・・・それは決して自分には能わぬ事だ・・・。 さっきのご両親の嬉しそうな声とマスターの悲痛な表情が脳裏にまとわりつく。 今日はもう寝る事にしたが、鞄に入っても気分がもやもやとして寝付けなかった。 どれ位の時が経ったのだろうか?何やら外が騒がしい。 マ「もう帰るの?朝ご飯くらい食べていきなよ。」 父「いや、道が混む前に帰りたいからな。」 母「それに昨日遅くまで暴飲暴食したから食欲が無いのよ。」 マ「そう。じゃあ仕方が無いね。気をつけて帰ってね。」 父「ああ、お前も元気でな。」 母「離れてても応援してるからいろいろ頑張ってね。」 マ「本当にいろいろ・・・ありがとう。」 父「じゃあな!」 母「体には気をつけてね。」 バタンと戸が閉じる。 しばらくして鞄から外に出る。 マ「あ、おはよう。今朝食の仕度してるからもう少し待っててね。」 蒼「僕も手伝うよ。」 マ「そう・・・ありがとう。」 何か言いたかったが、何を言っていいのか分からないままで二人並んで黙々と朝食の仕度をした。 マ「じゃあ食べようか。」 蒼「いただきます。」 マ「いただきます。」 やはり会話の無いままだ。 いつもなら天気の話とか他愛の無いことでも話題は尽きないのに。 蒼「あのさ・・・」 マ「なんだい?」 蒼「えーと・・・」 なんとなく黙っているのが辛くて話をしようとしたが後が続かない。 そうやって戸惑っているとマスターが言った。 マ「蒼星石、あの後の話を聞いたの?」 蒼「・・・うん。」 こくりとうなずく。 マ「そうか、やっぱりね。」 蒼「ごめんなさい。」 マ「別に気にしなくていいさ。たいした話でもないし。」 蒼「違うよ、その・・・僕じゃあ・・・マスターの子供は・・・」 マ「それも気にしなくていいんだよ。」 蒼「だけどマスターは子供を欲しくはないの?」 マ「・・・平気だよ。」 蒼「正直に答えてる?」 マスターはある意味僕の求める答えをしてくれたのにさらに追及する。 マ「ふぅ・・・こう答えればいいのかな?子供自体は欲しいよ。 子供好きで世話好きだと思うし、多分子煩悩の親馬鹿になるだろうね。」 マスターがうっすらと笑いながら言った。 蒼「やっぱり・・・そうだよね。」 それを聞いたマスターの笑顔が消える。 マ「でもね、僕だってもう子供じゃない。分かってるさ、あれもこれも欲しいってのがわがままだって事くらい。 自分で選んだんだよ。蒼星石と共に居られる事を優先しただけさ。子供よりも・・・両親よりもね。」 蒼「僕のせいで・・・。」 マスターが首を横に振る。 マ「違うよ、これは自分の意思だ。自分の責任で、僕“も”両親を“裏切る”事にしたんだ。」 その言葉を聞いて僕は気付いた。 昨日の自分の過ちに、自身の愚かさに。 そして・・・マスターの涙の意味に。 昨日の僕の軽はずみな発言のせいで、悩んでいたマスターを追い詰めてしまった。 自分はお父様との問題を先延ばしにしたに過ぎない。 数十年もしたら、また次の時代でやり直しが利くかもしれない。 だけどマスターは・・・ご両親が亡くなられたらもう取り返しはつかないのだ。 それがどれだけ後の事かは分からない。 しかしそれから後もずっと、マスターは一生自分を責め続けるのだろう。 僕の軽はずみな発言がマスターにその決心をさせてしまったのだ。 その後、二人とも一言も発さずに時は過ぎていった。 続き
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ある土曜日の昼下がり… 俺が居間のソファで本を読んでいる時だった。 「ねぇマスター、これ何?」 蒼星石が冷蔵庫から何か持ってきた。 これは確か… 「あぁ、それは梅ジュースだよ。前に梅をいっぱい貰ったから作ってみたんだ。昔、親が作ってたのを真似してみたんだ」 「へぇ、すごいねマスター、こんなの作れるなんて。僕も飲んでみてもいいかな?」 「どうぞどうぞ、気に入ってもらえればいいけど。あ、そのままだと濃いから水で薄めて飲んでね」 「うん、わかった」 そういって再び台所の方へと行った。 それにしても…土曜日って暇だなぁ… 何か変わったことでも起きないかなぁ… そう思い再び本の方へと視線を落とした。 読み始めてから数分たった時、再び蒼星石がこちらへとやってきた。 そして俺の隣にちょこんと座った。 「ねぇ、マスター」 「ん、どうした?」 「休みの日くらい一緒に遊ぼうよ。いつもは仕事で忙しいんだし…」 遊んでやりたいのだが、いま本がちょうど先が気になるところへきてしまった。 「ゴメン、もう少し待ってくれない?今ちょっといいところになっちゃって」 俺がそう言うと、蒼星石の目がうるうるとして今にも泣き出してしまいそうな状態になった。 「…マスターは僕のことキライ?…僕なんかと一緒に遊ぶのはイヤ?」 「い、いや、そうじゃなくてな…」 「じゃあ一緒に遊ぼうよ!」 何か蒼星石がいつもと違う気がする… いつもより感情の起伏が激しいというか… 顔もちょっと赤い。もしかして… 「なぁ、蒼星石」 「何、マスター」 「さっきお前梅ジュース飲んだよな?」 「うん、それがどうかしたの?」 「美味しくできてたか?」 「うん、美味しかったけど、ちょっと変わった味だったな」 …梅ジュースじゃなくて梅酒を飲んだのか! そう言えば梅酒も作った気がする… 確かに同じような瓶に入ってるのだが… 蒼星石の方を見ると、目が合ってこちらに向かってニコリと微笑んできた。 完全に酔ってるなこりゃ… 「とりあえず、寝かした方がいいよな…」 そう思って蒼星石を抱いて運ぼうとした時だった。 チュッ 蒼星石が優しく唇を重ねてきた。 そして唐突に聞いてきた。 「ねぇマスター、僕はマスターのこと大好きだよ?…マスターは僕のこと好き?」 そう言った蒼星石は顔が少し赤く、ちょっと色っぽくて、いつも可愛いのだがいつも以上に可愛く見えた。 「あぁ、好きだよ。大好きだ」 「よかった、ありがとうマスター、嬉しいよ…」 そう言ってこちらに体を預けてきた。 「じゃあ、一緒に昼寝でもしようか」 「うん!」 そして、寝室へ行き蒼星石に腕枕をしながら一緒に昼寝をした。 きっと、寝れば治るだろう。 数時間後… 俺が眼を覚ました時にはもう蒼星石は起きていた。 あたりを見ると暗くなっている。だいぶ寝てしまってようだ。 ベッドから降りてリビングへ行くと、もう夕飯の準備は終わったようで、蒼星石はソファに座ってテレビを見ていた。 「蒼星石、ゴメンな。こんな時間まで寝ちゃってた」 「え…あ、うん…」 なんだか蒼星石がこちらに顔を合わせようとしない… どうかしたのだろうか… 「ねぇマスター、僕、昼間にいろいろ言ってたよね?」 「あぁ、いろいろ言ってたけど…」 「あぁ…やっぱりぃ…」 もしかして、顔を合わせようとしなかったのは… 「僕、昼にお酒飲んじゃったみたいで酔っ払ってたみたいなんだけど、お昼寝して起きたらその時の記憶が少しあって…」 やっぱりそういうことだったのか。 よかった、嫌われたとかじゃなくて… 「うぅ…なんで僕あんなこと言ったんだろう…しかも、キ…キスまで…」 「あの時言ってたのは本音だったの?」 「え…い、いや、ちがうよ!そんなことないよ!」 「そっかー…残念だなぁ」 「い、いや、嘘でもないけど…え~っと…」 「じゃあやっぱり本音なんだ。よかった」 「うぅ…」 蒼星石が顔を真っ赤にしている。 きっと恥ずかしいのだろう。 「別に恥ずかしがらなくてもいいじゃない、お互い好き合ってる。それでいいじゃん」 「でも、恥ずかしいものは恥ずかしいよ…」 「蒼星石はもっと自分を出してもいいと思うけどなぁ」 「でも、僕そういうのニガテなんだよね…」 「じゃあこれからたまに梅酒でも飲んでみる?」 「い、いや、いいよ!酔っちゃうと何するかわからないもん」 「はは、まぁ、ありのままが一番だけどね」 そうして夜は過ぎていった。 次の日… 「マスター、梅ジュース飲んでもいいよね?」 「あぁ、間違えないようにな」 「うん、わかったよ」 ゴクゴク… はぁ、今日もすることがないな… また昼寝でもしようかな… 「ねぇ、マスター」 「どうした?」 「僕、マスターのこと大好きだよ!」 「……」 はぁ…梅酒、早く俺が飲まないとな…
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蒼星石、おやつの時間だよ 今日のおやつは俺が真面目に商品化を考えてるバナナ飴だ。 (りんご飴のようにバナナを飴でコーティングしたもの) さあ、周りの飴をちゅぱちゅぱ舐めながら食べてくれ 蒼「ちゅぱっ・・・ちゃぷっ・・・んっ・・・まふはぁのばななおぃひぃ・・・」 (マスターの(作った)バナナおいしい・・・) マ「そうかよかった・・・あっ、もう(中のバナナが)出そうだ」 蒼「えっ、もう出ちゃうの?まだ舐めてたかったのに・・・ねえ、噛んでいい?」 マ「え、ちょっ、アッー」 蒼「キャッ・・・バナナの中からなにか出た・・・」 マ「それはバナナの中に隠し味として入れた高カカオホワイトチョコソースだ」 蒼「うぇぇん苦いよマスター・・・」 マ「マズかったか?」 蒼「ううん、苦いけど・・・マスターの(作ったもの)だから美味しい・・・」
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蒼「マスター、大丈夫?」 マ「悪いな・・・」 風邪をひいてしまったため、蒼星石に看病してもらっている 蒼「僕の事は気にしなくていいよ・・・ 39度もあるんだから安静にしてなきゃだめだよ?」 マ「ああ、わかってるよ・・・」 蒼「何かして欲しい事とかある? 僕にできる事ならなんでも言って」 マ「じゃあ・・・大好きって言ってくれ・・・」 蒼「なっ・・・!こんな時にまでふざけないでよマスター!」 マ「ふざけてなんかないよ・・・言ってくれなきゃ今すぐ死にそうだ・・・・・・」 蒼(ホントに39度もあるのかな・・・) マ「早く言ってくれ・・・」 蒼「マスター・・・・・・大好き・・・・・・・・・」 マ「ぐはどぅばぁっ!!!」 蒼「マスター!!??どうしたの!?」 マ「いや・・・予想以上に可愛かったから・・・・・・」 蒼「もう!マスターのばか!」 マ「けぺらぱぁ!!!」 蒼「ますたああああああぁぁぁぁ!!!!」 翌日には何事もなかったかように元気になっていた
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「ただいま・・・って、これまた今日はにぎやかなことで・・・。」 帰ってきてふすまを開けたマスターが驚きの声を上げる。 無理もない、部屋には車座に六人のドールたちとジュン君、のりさんに巴ちゃんが座っていたのだから。 ※みっちゃんさんは仕事の都合で涙ながらに参加を断念したそうだ。一堂に会した僕らの様子を写真に撮りたがっていたらしいが。 の「おじゃましてまーす。」 巴「こんばんは・・・。」 「あ、どうも。ところでこんな大勢でどうしたの?」 真「百物語をやるのだわ。」 「これまた微妙に季節外れなことを・・・。」 真「あら、あなたくんくんを侮辱する気?あの方はおっしゃったわ、『この事件の鍵は百物語にある!』と。 だから私たちも百物語をしておいて、いざという時にはあの方をお助けできるようにするのだわ!」 劇中ではそういう意味ではなかった気もするが、こうなった真紅は止めようがないので付き合うしかない。 なぜか他の姉妹たちも乗り気になってしまっているし。 「なるほどねぇ・・・。」 言いながらマスターが水銀燈のほうに目をやる。やはりマスターにとっても彼女が参加するのは意外だったのだろう。 銀「ふ、ふん、私はおばかな真紅たちに仕方なく付き合っているだけだわぁ。 それで何も起きなかったら無様な姿を思う存分笑ってやるんだから。」 何も聞かれてもいないのに言い訳を始める。隠しているつもりなのだろうが彼女もやる気満々だ。 これまた意外なことではあったが、どこかでしっかりとくんくんを見ていたらしい。 雛「みんなでお話するのー。ねー、トモエー♪」 巴「そうね、楽しみね、雛苺。」 雛苺はなんか楽しそうだ。はたして彼女は百物語というものを理解しているのだろうか? 「えーと、百物語って事は一人当たり十回も話さなきゃならないのか。急に振られてもそんなに怪談話なんて無いよ?」 真「あなたの順番は最後にしてあげるから、やりながら思い出せばいいのだわ!さっさと開始するのだわ!」 「はいはい。」 マスターが僕の隣、姿見の前に空いていたスペースに腰を下ろす。 そうしていよいよ百物語が始まった。みんな自分が今まで見聞きした怪談を披露する。 真紅はイギリスの怪談、雛苺はフランスの怪談、水銀燈は病院もの中心、のりさんと巴ちゃんが学校での怖い話、 ジュン君がインターネットで話題の都市伝説、といったようにそれぞれがなかなかうまく異なったタイプの話をする。 そんな中マスターは・・・ 「・・・次の瞬間、鏡に映った自分が突然この世のものとも思えぬ恐ろしい形相で笑みを浮かべたと思ったら、 不気味な光を放つ鏡の中へと消えていってしまったという・・・。」 翠「それって水銀燈の仕業じゃねえですかぁ?」 銀「ちょっとぉ、失礼なこと言わないでよ!でも、確かに私なら普通に出来ちゃうことねぇ。」 「あ、あははっ、そうかもね。まあとりあえずろうそくは消すね。」 帰ってきていきなり動員され、全く準備をしていないこともあり悪戦苦闘していた。 ・・・正直言って怖い話ばかりで少し参っていたのでちょっとほっとする。 「大丈夫、怖くない?」 マスターが小声で聞いてきた。 蒼「子供じゃないんだから大丈夫だよ。」 他の姉妹たちの手前もあり、ついきつい言い方をしてしまう。 本当はそうやって気にかけてもらえているのがすごく嬉しかったのに。 ひょっとしたらマスターは僕のことを案じてくれてわざとあまり怖くない話を・・・というのはいくらなんでも自惚れが過ぎるか。 何はともあれ百物語は着々と進行し、ついにその時が来た。 真「さあ、いよいよ最後の百話目なのだわ。」 翠「よりによってこいつがトリですか。また下らねえ話で尻すぼみで終わっちまいそうですねえ。」 「そうだな・・・それじゃあ最後はとっておきの話としましょうか。」 その言葉にみんなが期待と不安の入り混じった目でマスターに注目する。 「まず最初に、これは作り話ではなく事実だと予告しておこう。」 最後の一本のろうそくを手に取ってマスターが言う。 闇の中、下からろうそくの炎で照らし出される顔はまるで別人のようにも見える。 金「そ、そんなありきたりな脅しはカナには通用しないのかしらー・・。」 そう言いながら声が震えている。かく言う僕も、漂い始めた異様な雰囲気に背筋に不気味なものを感じる。 「実はね、百物語ってのは鏡のあるところでやってはいけないんだ・・・。 特に、百話目を、こんな大きな鏡の前ではね・・・。」 今までとは違うマスターの神妙な話しぶりにみんなが緊張した面持ちで耳を傾ける。 「百物語、それは百話分の怪談のエネルギーによって異界との扉を開きやすくしてしまう行為なんだ。 そして・・・鏡というのはその扉が現れる場所として非常に相性が良い。 だから、以前にそこで百話目をしてしまったある者は・・・」 翠「ど・・・どうなったですか?」 「消えちゃった・・・。百話目が終わり、ろうそくを吹き消した後に『あるもの』がやって来た・・・。 その『あるもの』が姿を現した時・・・居合わせた誰もが自分の目を疑った。そして・・・消えてしまった。 話をしていたはずの人間がやって来た『あるもの』と共に消えてしまったんだ・・・・・永遠に。 さあ・・・これでお話はおしまい。じゃあ・・・、消すね。」 蒼「マ、マスター本当に消すの?」 「百本目が消えたら何かが起こりそうで怖い?」 蒼「こ、怖いんじゃ・・・それもあるけど、なんだかマスターが本当に消えちゃったらって心配で・・・。」 「そっか、君にとても大切に思われてるんだね・・・。」 蒼「も・・もう、変なこと言わないでよ!」 マスターが心なしか口の端を吊り上げて、ふっと笑いながらろうそくを吹き消した。 部屋が真っ暗闇に包み込まれる。 この後に何かが起こるのか、部屋の中の誰もが神経を研ぎ澄ませていた。 翠「ちょっ、何か今玄関の方で音がしなかったですか!?」 銀「気、気のせいじゃないのぉ?」 蒼「いや、確かに戸の開くような音がした。」 金「あ、足音も聞こえないかしらー!?」 だんだんと、足音がこちらのほうに近づいてくる。 雛「ヒナ、こわいのー!」 巴ちゃんがしがみつく雛苺をぎゅっと抱きしめる。 真「ちょっと、みんな落ち着きなさい。」 そして足音が部屋の前で止まる。一同が固唾を呑んでふすまを見つめる。 ついに・・・ふすまが開いた!! その場の全員が我が目を疑い凍りつく。 マ「ただいま・・・って、これまた今日はにぎやかなことで・・・。」 ふすまを開けて立っていたのが、たった今百話目を話し終えたはずのマスターだったからだ。 マ「ところでこんな大勢で真っ暗な部屋で何してるの?」 巴「百物語ですけど・・・。」 マ「へえ、ちょっと季節外れだけど面白そうだね。もう終わっちゃったの?」 ジ「じゃ、じゃあ、さっきまでそこで話をしていたのは誰なんだよ!」 ジュン君の一言でみんなの視線がいっせいに鏡の前に集まる。 そこには不気味な光を放つ鏡に吸い込まれ、今まさに消えようとする男の手だけがわずかに残っていた。 鏡の中では、男がこの世のものとも思えぬ恐ろしい形相で笑みを浮かべていた。 みんな声にならない悲鳴を上げてあたふたとしている。 そんな騒ぎの中、一人だけ事情を知らないマスターがのんきに言う。 マ「蒼星石、今nのフィールドで先に帰ってったの誰?僕の知らない人?」 蒼「nのフィールド・・・?あっ、そうか!」 雛「どうしたのー、蒼星石ー?」 蒼「今までここにいたのは・・・ラプラスの化けた偽者だったんだ!」 その場の全員がはっとする。 雛「うゆー、蒼星石すごいのー!くんくんみたいなのー!!」 真「あの兎・・・今度こそ尻尾を引っこ抜いてやるのだわ!」 金「カ、カナは最初っからまるっとお見通しだったかしらー。」 銀「・・・こんなことで大騒ぎしちゃって、ほんとにほんとにおばかさぁん。」 翠「てめえもしっかりと騒ぎに加わっていたですがね。」 銀「なぁんですってえ!」 マ「あの・・・一部が異様に殺伐としてるけど百物語しに来たんだよね?アリスゲームはやめてよね。」 未だに事態を把握できないマスターをよそに、こうして僕らの百物語は何事も無く幕を下ろしたのであった。 めでたし、めでたし・・・ ラ「ふぅ・・・なーんか最近、人形屋のバイトばかりで特に面白いことも無く退屈ですねぇ・・・。 体育の日とやらにでも、久しぶりに何かやらかしちゃいましょうか・・・、トリビァル!」 ちなみにやらかしたのはこれです